職場の虹事例集

大手広告エンタメ企業 クリエイティブワークス株式会社の事例:表現の多様性が拓くLGBTQ+インクルージョン

Tags: LGBTQ+インクルージョン, 企業事例, D&I, 広告エンタメ, ダイバーシティ&インクルージョン

導入:多様な表現を追求する企業が、なぜLGBTQ+インクルージョンに取り組むのか

クリエイティブワークス株式会社は、広告、映像、デジタルコンテンツなど、多岐にわたる分野で革新的なソリューションを提供している大手広告エンタメ企業です。同社は創業以来、「表現の力で世界を動かす」ことを企業理念として掲げてきました。

しかし近年、社会の価値観が多様化し、ステレオタイプに囚われた表現や画一的なアイデアでは、人々の心を動かすことが難しくなってきていました。特に、Z世代などの若い層は、企業の姿勢や社会課題への意識を重視する傾向が強まり、多様な視点や価値観を取り入れられない企業は、人材採用においても苦戦を強いられるようになります。

こうした背景から、同社は企業理念の根幹である「表現の多様性」を追求するためには、まず企業内部の「人の多様性」を受け入れ、尊重することが不可欠であると認識するに至りました。その中でも、これまで十分に可視化されてこなかったLGBTQ+当事者が、安心して自己を表現し、能力を最大限に発揮できる環境を整備することが、喫緊の課題として浮上したのです。

本記事では、クリエイティブワークス株式会社が、クリエイティブ業界という特性を活かしつつ、どのようにLGBTQ+インクルージョンを推進し、それが企業文化、創造性、そしてビジネス成果にどのような影響をもたらしたのか、具体的な取り組み事例を通してご紹介します。

具体的な取り組み内容:制度、啓発、そして「表現ガイドライン」

クリエイティブワークス株式会社のLGBTQ+インクルージョンへの取り組みは、多角的なアプローチで行われています。

1. 社内制度の整備

まず、基本的なインフラとして、人事制度の見直しに着手しました。 * 同性パートナーシップ制度の導入: 法律婚に準ずる制度として、慶弔休暇、福利厚生(住宅手当、扶養手当など)、会社の各種規定における配偶者に関する取り扱いを、同性パートナーにも適用しました。 * 性自認に基づくトイレ・更衣室の使用: 従業員が自身の性自認に基づき、利用するトイレや更衣室を選択できるルールを明確化し、周知しました。多目的トイレの整備も進めています。 * 服装規定の柔軟化: 従業員の自己表現の自由を尊重するため、性別を問わない服装規定を導入し、ビジネスシーンにおける多様なスタイルを許容しました。

2. 従業員への啓発・研修

制度導入と並行し、従業員の意識改革を目的とした啓発活動と研修を継続的に実施しています。 * 全従業員向け基礎研修: LGBTQ+に関する基本的な知識、職場で起こりうる課題(マイクロアグレッションなど)、アライ(ALLY:LGBTQ+を理解し支援する人々)としての行動について、オンラインと対面の混合形式で実施しました。特に、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)に焦点を当てた内容は、多くの従業員にとって気づきとなったようです。 * 管理職向け研修: 部下の多様性を理解し、心理的安全性の高いチームを作るためのリーダーシップ研修を実施しました。困難な状況への対応方法なども含む実践的な内容です。 * 「多様性のある表現ガイドライン」研修: クリエイターや企画担当者向けに、LGBTQ+をはじめとする多様な人々に対する配慮を欠いた表現やステレオタイプを避けるための社内ガイドラインを策定し、その意図と具体的な活用方法を学ぶ研修を実施しました。これは、同社のクリエイティブの質そのものを高めることを目的としています。

3. 社内コミュニティとアライの育成

当事者やアライが安心して交流できる場を設けることも重視しています。 * ERG(Employee Resource Group)支援: LGBTQ+当事者やアライが集まる有志のコミュニティ活動を会社として公式に支援し、活動費用やイベントスペースを提供しています。 * アライ育成プログラム: アライシップへの理解を深め、具体的な支援行動を促すためのプログラムを実施し、社内にはアライであることを示すレインボーグッズを身につける従業員が増えました。

4. 外部との連携

外部の専門機関や当事者団体との連携も積極的に行っています。 * 専門家による相談窓口: 従業員がプライベートなことも含めて相談できる外部の専門家による相談窓口を設置しました。 * 当事者団体との協働: キャンペーン実施やコンテンツ制作において、当事者のリアルな声を取り入れるために、LGBTQ+関連団体と協働する機会を増やしました。

導入プロセスと課題:全社的な理解浸透への道のり

これらの取り組みを進めるにあたり、いくつかの課題に直面しました。

1. 経営層への理解促進とコミットメント獲得

初期段階では、一部の経営層において、D&Iへの投資が直接的なビジネス成果に繋がるのか懐疑的な声もありました。これに対し、人事部とD&I推進担当者は、多様性がイノベーションやクリエイティビティに不可欠であること、そして若い才能を惹きつけ、既存従業員のエンゲージメントを高めることが長期的な企業価値向上に繋がることを、具体的な市場データや競合他社の動向、そして自社の従業員意識調査の結果を用いて粘り強く説明しました。国内外の先進事例も提示し、最終的に経営層からの強いコミットメントを得ることができました。

2. 従業員の無理解や抵抗

特に初期の研修では、LGBTQ+に関する知識不足や、自身の価値観との違いから戸惑う従業員も見られました。「なぜ今、このテーマなのか」「やりすぎではないか」といった声も挙がりました。これに対しては、一方的な情報提供に留まらず、双方向の対話集会やワークショップを企画し、従業員一人ひとりの疑問や不安に寄り添う丁寧なコミュニケーションを心がけました。また、当事者の従業員が自身の経験を語る機会を設けるなど、顔の見える形で理解を深める工夫も行いました。

3. 「多様性のある表現ガイドライン」の浸透

クリエイティブ部門からは、「表現の自由が損なわれるのではないか」「過度な配慮がクリエイティビティを阻害するのではないか」といった懸念の声が上がりました。これに対し、ガイドラインはあくまで「より多くの人々に響く、質の高いクリエイティブを生み出すための指針」であることを丁寧に説明しました。一方的に押し付けるのではなく、ガイドライン作成の段階から現場のクリエイターを巻き込み、共に議論する場を設けました。また、ガイドラインに沿った優れたクリエイティブ事例を積極的に社内で共有し、成功体験を積むことで理解と受容を促進しました。

4. 予算とリソースの確保

新たな制度導入や研修、外部連携には当然ながら予算が必要です。当初は限られたリソースの中でのスタートでしたが、取り組みの成果が見え始めるにつれて、経営層からの理解が進み、徐々に予算と専任担当者を増やすことができました。

導入後の変化と効果:創造性の解放と企業価値向上

これらの取り組みは、クリエイティブワークス株式会社に様々なポジティブな変化をもたらしています。

これらの効果は、単に「良い企業イメージ」に留まらず、優秀な人材の獲得・定着、従業員のエンゲージメント向上による生産性向上、そして何よりも同社の中核である「クリエイティブの質向上」という、経営に直結する成果に結びついています。

成功のポイントと示唆:企業文化とクリエイティビティを繋ぐ

クリエイティブワークス株式会社の取り組みが成功に至った主要なポイントはいくつかあります。

  1. トップマネジメントの明確なコミットメント: 経営層がLGBTQ+インクルージョンを単なるCSR活動ではなく、企業の持続的な成長に不可欠な経営戦略と位置づけ、強力なリーダーシップを発揮したことが基盤となりました。
  2. 人事部と現場(クリエイター)の協働: 人事部が制度や研修を推進するだけでなく、実際にクリエイティブを生み出す現場の意見を吸い上げ、共に解決策を模索したことが、実効性の高い「表現ガイドライン」の策定と浸透に繋がりました。
  3. 「多様性のある表現」というビジネスメリットとの接続: クリエイティブ業界という特性を活かし、D&Iが企業理念である「表現の多様性」やビジネス成果に直結することを明確に打ち出した点が、従業員の自発的な関与を促しました。
  4. 継続的な啓発と対話: 一度きりのイベントで終わらせず、研修、ワークショップ、社内コミュニティ支援など、様々なチャネルを通じて継続的に情報提供と対話の機会を提供したことが、組織文化の定着に寄与しました。
  5. 外部専門知識の活用: 当事者団体やD&Iコンサルタントなど、外部の専門家の知見やネットワークを活用したことが、取り組みの質を高め、社内だけでは得られない視点をもたらしました。

この事例から学ぶべき示唆は、D&I推進、特にLGBTQ+インクルージョンは、単なる「正しいこと」としてではなく、「企業の成長に不可欠な戦略」として位置づけることが重要であるという点です。特に、企業のビジネスモデルや文化と結びつけてその必要性を説明できれば、経営層や従業員の理解と協力を得やすくなります。クリエイティブワークス株式会社の事例は、多様性が企業の競争力、特に創造性やイノベーションの源泉となることを示しています。

まとめ:多様な光が織りなす企業の虹

クリエイティブワークス株式会社は、LGBTQ+インクルージョンを企業の根幹である「表現の多様性」と結びつけ、制度、啓発、そして「多様性のある表現ガイドライン」の策定・浸透を軸とした多角的な取り組みを進めてきました。そこには、経営層の理解促進、従業員の意識改革、現場との協働といった様々な課題がありましたが、粘り強い対話と継続的な活動によって乗り越え、心理的安全性の向上、クリエイティブの質の向上、採用力強化といった具体的な成果に繋がっています。

この事例は、クリエイティブ業界に限らず、あらゆる業界において、多様な視点や経験を持つ人々が安心して自己を表現できる環境こそが、企業のイノベーションや持続的な成長の鍵となることを示唆しています。本事例が、読者の皆様が自社でLGBTQ+インクルージョンを含むD&I推進を検討される際の、実践的なヒントとなれば幸いです。多様な光が織りなす企業の虹は、必ずや組織をより強く、より魅力的なものに変えていくでしょう。