職場の虹事例集

大手教育サービス企業エデュケーショナルパートナーズの挑戦:学びの場から変えるLGBTQ+インクルージョン戦略

Tags: LGBTQ+, インクルージョン, 教育サービス, D&I, 心理的安全性

はじめに

企業におけるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進は、現代の経営において不可欠な要素となりつつあります。特にLGBTQ+に関するインクルージョンは、従業員一人ひとりが安心して能力を発揮できる環境を整備する上で重要な取り組みです。本稿では、教育サービスという特性を持つ大手企業、エデュケーショナルパートナーズ株式会社がどのようにLGBTQ+インクルージョンに取り組み、それが組織文化や事業にどのような変化をもたらしたのか、その具体的な事例を紹介します。

エデュケーショナルパートナーズ株式会社は、長年にわたり、学習塾、通信教育、オンライン教育プラットフォームなど、多岐にわたる教育サービスを提供してきました。その事業は、子供から社会人まで、幅広い年齢層の学習者と関わるものです。同社がLGBTQ+インクルージョンの推進を決めた背景には、「全ての人が安心して学び、成長できる環境を提供する」という企業理念があります。この理念は、学習者だけでなく、サービスを提供する従業員自身にも適用されるべきであるという認識が深まったことが、取り組みの大きな契機となりました。

しかし、教育現場という特性上、多様な価値観を持つ学習者や保護者との接点が多く、また社内にも様々な年齢層や職種の従業員が存在します。LGBTQ+に関する従業員の知識や理解にはばらつきがあり、無意識の偏見が存在する可能性も課題として認識されていました。こうした背景から、同社は単なる制度整備にとどまらず、組織文化全体の変革を目指した包括的なLGBTQ+インクルージョン戦略を推進することとなりました。本記事では、同社の具体的な取り組み内容、導入プロセスで直面した課題とその克服方法、そして導入後の変化と効果について、詳しく解説してまいります。

具体的な取り組み内容

エデュケーショナルパートナーズ株式会社は、LGBTQ+インクルージョンを推進するために、制度整備、研修、社内文化醸成など、多角的なアプローチを実施しました。

制度整備

パートナーシップ制度の導入

同社は、同性パートナーを配偶者と同様に扱う社内パートナーシップ制度を導入しました。これにより、慶弔休暇、扶養手当、転勤時の社宅利用など、各種福利厚生制度が同性パートナーにも適用されるようになりました。この制度導入にあたっては、法務部門や人事部門が連携し、他社事例や法的解釈について慎重に検討を重ねました。導入の際には、単に制度を設けるだけでなく、その目的と意義を全従業員に丁寧に説明することが重視されました。

氏名変更規定の柔軟化

法的な性別変更が完了していなくとも、従業員が自認する性別に応じた通称名で勤務できるよう、社内規定を見直しました。これにより、社内システム、名札、メールアドレス、各種申請書類などで通称名が使用可能となり、従業員がより自然体で働くことができる環境を整備しました。

性別適合手術に関する休暇・支援

性別適合手術を受ける従業員に対し、特別休暇制度を設けました。また、経済的な負担を軽減するための支援についても検討を進め、対象範囲や条件を明確化しました。

研修・啓発活動

全従業員向け基礎研修

LGBTQ+に関する基本的な知識、正しい用語の使用方法、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)について学ぶ全従業員向けのeラーニング研修を実施しました。短時間で受講できるようモジュール化し、理解度を確認するための簡単なテストも導入しました。

管理職向け実践研修

管理職に対しては、部下からの相談を受けた際の具体的な対応方法、差別の禁止に関するガイドライン、アライ(LGBTQ+当事者を理解し支援する人々)としての役割など、より実践的な内容を含む集合研修を行いました。ケーススタディ形式を取り入れることで、現場で起こりうる状況を想定した学びを深めました。

教育現場スタッフ向け研修

学習塾やオンライン教育など、直接学習者と関わる現場スタッフ向けには、生徒や保護者とのコミュニケーションにおいて多様性へ配慮するための研修を実施しました。具体的な事例をもとにしたロールプレイングや、センシティブな質問を受けた際の対応フローに関するQ&Aセッションを組み込み、現場での実践に即した内容としました。

サポート体制の構築

社内相談窓口の設置

人事部内に、LGBTQ+に関する相談を受け付ける専用窓口を設置しました。プライバシー保護に最大限配慮し、安心して相談できる環境を整備しました。必要に応じて、外部の専門機関と連携できる体制も構築しました。

アライコミュニティの支援

従業員有志によるアライネットワークの活動を積極的に支援しました。活動費の補助や社内広報を通じたメンバー募集などを行い、ボトムアップでのインクルージョン推進を後押ししました。

外部連携と情報発信

LGBTQ+に関する専門的な知識や経験を持つNPOやコンサルタントから助言を得ながら、施策の企画・実行を進めました。また、外部のD&Iに関するアワードや指標(例:PRIDE指標)への参加を通じて、自社の取り組み状況を客観的に評価し、改善点を見出す機会としています。

導入プロセスと課題

エデュケーショナルパートナーズ株式会社がこれらの取り組みを進めるにあたっては、いくつかの段階を経て、様々な課題に直面しました。

プロセス

まず、D&I推進を専門とする部署横断的なチームを設置しました。このチームが中心となり、企業理念との関連性や、教育サービス企業としての社会的な責任といった観点から、LGBTQ+インクルージョンの重要性を経営層に丁寧に説明し、強いコミットメントを得ることに注力しました。

次に、全従業員を対象とした意識調査や、一部の従業員へのヒアリングを通じて、社内の現状把握を行いました。これにより、具体的な課題やニーズが明らかになりました。これらの情報に基づき、制度設計、研修コンテンツの開発などを進めましたが、法務部門やIT部門など、関係部署との綿密な連携が必要でした。特に、通称名のシステム対応や、相談窓口のプライバシー保護に関する技術的な検討には時間を要しました。

施策の導入は段階的に行われました。まず、比較的導入しやすい社内制度(パートナーシップ制度など)から開始し、その後、全従業員対象の基礎研修、管理職研修、現場向け研修と展開していきました。社内イントラネットや社内報、経営層からのメッセージなどを通じて、継続的に取り組みの目的や内容を周知徹底しました。

直面した課題と克服方法

最も大きな課題の一つは、従業員の理解度や関心度のばらつきでした。特に、LGBTQ+に関する知識がない、あるいは必要性を感じていない従業員も一定数存在しました。これに対しては、研修を必須受講とすることに加え、なぜLGBTQ+インクルージョンが重要なのか、それが自分たちの働く環境や提供する教育サービスにどう繋がるのかを、具体的な事例やデータを示しながら丁寧に説明することを心がけました。また、eラーニングを短時間で完結できるモジュールに分けることで、忙しい業務の合間でも受講しやすいように工夫しました。

教育現場での実践も課題でした。学習塾の講師や教室スタッフからは、「生徒や保護者からの予期せぬ質問にどう答えたら良いか分からない」「カミングアウトされた場合にどう対応すべきか不安」といった声が聞かれました。これに対し、研修時間を確保することが難しい現場の状況を考慮し、短時間でのロールプレイングを取り入れたり、具体的なQ&A集を作成して配布したりするなど、現場での実践に特化したサポートを強化しました。

予算確保も初期の課題でした。D&I推進活動への投資対効果を経営層に説明するため、従業員エンゲージメント向上、離職率低下への貢献可能性、採用における競争力強化といった視点から、具体的なデータや他社事例を提示することに努めました。

情報セキュリティとプライバシー保護は極めて慎重に対応すべき課題でした。センシティブな情報を取り扱う相談窓口や、通称名利用に関するシステム改修においては、情報漏洩のリスクを最小限に抑えるための厳重なガイドラインを策定し、関係部署や従業員への周知徹底を行いました。

経営層や中間管理職の意識浸透も継続的な課題です。トップからのメッセージ発信を定期的に行うとともに、中間管理職に対しては、インクルージョンの重要性を繰り返し伝え、部下の多様性を尊重するリーダーシップのあり方について研修を実施しました。彼らをアライとして巻き込むことが、組織全体の意識変革に繋がるという認識のもと、対話の機会を多く持つようにしました。

導入後の変化と効果

これらの取り組みが導入された後、エデュケーショナルパートナーズ株式会社の社内には様々なポジティブな変化が見られるようになりました。

従業員の意識・行動の変化

従業員向けに実施したアンケートによると、LGBTQ+に関する知識や理解度が向上したという回答が増加しました。また、「LGBTQ+に関する相談を気軽にできる相手が増えた」「職場で自分の性的指向や性自認について安心して話せるようになった」といった声が聞かれるようになりました。これは、相談窓口の設置やアライネットワークの活性化、そして継続的な啓発活動の成果と考えられます。ハラスメントに関する相談件数も、取り組み開始前と比較して減少傾向が見られています。

社内コミュニケーションと企業文化

従業員エンゲージメントサーベイの結果では、心理的安全性の項目においてスコアが向上しました。多様なバックグラウンドを持つ従業員同士が互いを理解し、尊重し合う文化が醸成されつつあります。これは、従業員が「ありのままの自分」でいられる場所が増えたことを示唆しており、よりオープンで率直なコミュニケーションが生まれやすくなっています。

採用活動への影響

新卒採用および中途採用において、企業説明会や採用面接時に、候補者からD&IやLGBTQ+に関する取り組みについて質問される機会が増加しました。同社の取り組みを評価し、入社を希望する候補者も増えており、多様な人材の確保において競争力が高まっていると感じています。企業のウェブサイトや採用ページでLGBTQ+インクルージョンに関する情報を積極的に発信していることも、応募者の増加に繋がっていると考えられます。

教育サービスへの影響

教育現場においては、生徒や保護者からの多様なニーズへの対応が円滑になりました。LGBTQ+に関する質問や相談を受けた際に、現場スタッフが適切な知識と対応フローに基づいて対応できるようになり、混乱や誤解を防ぐことに繋がっています。また、教材やプログラム開発においても、よりジェンダーやセクシュアリティの多様性に配慮した内容が検討されるようになり、全ての学習者が安心して学べる環境づくりが進んでいます。

定量的な成果

具体的な成果としては、全従業員向け基礎研修の受講率が計画を上回ったこと、アライネットワークの登録者数が年間で〇〇%増加したことなどが挙げられます。また、従業員エンゲージメントサーベイにおける心理的安全性のスコアが、取り組み開始後2年間で〇〇ポイント上昇しました。これらのデータは、取り組みの効果を経営層や関係者に説明する上で説得力のある材料となっています。

成功のポイントと示唆

エデュケーショナルパートナーズ株式会社のLGBTQ+インクルージョン推進が成功に至った背景には、いくつかの重要な要因があります。

第一に、企業理念とインクルージョンの強い結びつきです。「全ての人が安心して学び、成長できる環境」という理念が、インクルージョン推進の揺るぎない土台となりました。これは、教育サービスという事業特性とも深く関連しており、単なる社会貢献ではなく、企業の本質的な活動としてインクルージョンを位置づけることができた点が強みです。

第二に、トップコミットメントと継続的なメッセージ発信です。経営層がLGBTQ+インクルージョンの重要性を理解し、積極的に社内外にメッセージを発信したことで、従業員はこの取り組みが会社にとって重要なことであると認識し、安心して関わることができました。

第三に、現場の実態に即した施策です。特に教育現場からの声を丁寧に聞き取り、具体的なQ&A集やロールプレイング研修など、現場のニーズに合わせた実践的なサポートを提供したことが、取り組みの浸透に大きく貢献しました。机上の空論に終わらせず、日々の業務で活かせる情報を提供できた点が重要です。

第四に、アライの育成とコミュニティ支援です。当事者だけでなく、アライを増やし、彼らが自律的に活動できる環境を整備したことで、インクルージョン推進が特定の人事担当者やD&Iチームだけの活動ではなく、従業員全体のムーブメントとなりました。

この事例から、読者の皆様が自社でLGBTQ+インクルージョンを検討する際に学ぶべき示唆は多岐にわたります。自社の事業特性や企業理念とインクルージョンをどのように結びつけるか、経営層をいかに巻き込むか、そして従業員一人ひとりの状況や立場(管理職、現場スタッフなど)に合わせた、きめ細やかな研修やサポート体制をいかに構築するか、といった点が特に参考になるでしょう。また、一度取り組んだら終わりではなく、継続的に効果測定を行い、改善を続けることの重要性も示されています。

まとめ

本稿では、大手教育サービス企業エデュケーショナルパートナーズ株式会社のLGBTQ+インクルージョン戦略の事例をご紹介しました。同社は、「全ての人が安心して学び、成長できる環境」という企業理念を基盤に、制度整備、研修、現場支援、サポート体制構築といった多角的なアプローチを実施しました。

取り組みの過程では、従業員の理解度、現場での実践、予算確保、プライバシー保護など、様々な課題に直面しましたが、経営層の強いリーダーシップ、現場の声を反映した施策、そして粘り強い啓発活動を通じてこれらの課題を乗り越え、あるいは現在も克服に向けて取り組んでいます。

導入後の効果として、従業員の意識・行動の変化、心理的安全性の向上、採用力の強化、そして教育サービスそのものへのポジティブな影響が見られました。この事例は、LGBTQ+インクルージョンが単なる人事施策ではなく、組織文化を変革し、事業の成功に繋がる戦略的な取り組みであることを示しています。

エデュケーショナルパートナーズ株式会社の挑戦は、特に顧客やステークホルダーとの多様な接点を持つ企業にとって、従業員のインクルージョンがどのように事業価値の向上に繋がるのかを示す貴重な事例と言えるでしょう。読者の皆様が自社でD&I、特にLGBTQ+に関する施策を検討・実行される際の参考となれば幸いです。今後の展望としては、更なる制度拡充や、地域社会との連携を通じたアウトリーチ活動なども視野に入れているとのことです。