職場の虹事例集

大手総合サービス企業インテグレートサービス社の事例:早期オンボーディングとキャリア支援で育むLGBTQ+インクルーシブなタレントパイプライン

Tags: LGBTQ+インクルージョン, オンボーディング, キャリア支援, タレントマネジメント, 組織文化

はじめに:将来を担う世代への投資としてのLGBTQ+インクルージョン

多様なサービスを提供する大手総合サービス企業であるインテグレートサービス社は、近年、LGBTQ+を含む多様な背景を持つ人材の採用と定着、そして将来のリーダー育成に注力しています。特に、キャリアの初期段階にある若手社員や新入社員へのアプローチを重視しており、早期からのLGBTQ+に関するインクルージョンの啓発と、安心できる環境でのキャリア形成支援が、長期的な組織文化醸成とタレントパイプライン構築に不可欠であるとの認識に至りました。

同社がこの課題に取り組む背景には、採用市場における若手層の価値観の変化や、多様な視点が新たなサービス創出に繋がるという経営判断があります。入社後早期にインクルーシブな環境を提供することが、社員のエンゲージメントや定着率を高め、結果として企業全体の競争力強化に貢献すると考えたのです。本記事では、インテグレートサービス社が実施した、若手・新入社員を対象とした具体的な取り組みと、その導入プロセス、そして得られた効果について深く掘り下げてご紹介します。

具体的な取り組み内容:早期からの啓発と安心できる支援体制

インテグレートサービス社が若手・新入社員向けに実施した主なLGBTQ+インクルージョン施策は以下の通りです。

1. オンボーディング期間中のD&I研修必須化

新入社員研修に、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)と特にLGBTQ+に関する基礎知識、アライシップの重要性、社内制度や相談窓口に関する情報提供を組み込みました。一方的な座学だけでなく、少人数のグループディスカッションや、希望する当事者社員・アライ社員によるパネルディスカッション形式を取り入れることで、より参加者が主体的に学び、相互理解を深められるよう工夫されています。これにより、入社時点から多様性を受け入れる意識を醸成し、心理的安全性の基礎を築くことを目指しました。

2. 希望者向けLGBTQ+インクルージョン・メンター制度

入社3年目までの若手社員を対象に、希望に応じてLGBTQ+に関する理解のある先輩社員(アライ社員や、オープンにしている当事者社員)をメンターとする制度を導入しました。キャリアに関する相談に加え、職場での人間関係やプライベートの悩みなど、若手社員が抱えやすい様々な課題について安心して相談できる関係性を構築することを目指しています。メンターとなる社員には、守秘義務や適切なコミュニケーションに関する事前研修を必須としました。

3. キャリア形成・相談窓口の拡充

人事部内のキャリア相談窓口に加え、LGBTQ+に関する専門知識を持つ外部EAP(従業員支援プログラム)機関や、社内の専任担当者と連携した相談体制を強化しました。キャリアパスに関する悩み、ハラスメントの懸念、福利厚生制度の適用に関する疑問など、LGBTQ+当事者やその懸念を持つ社員が、安心して専門的なアドバイスを得られるようにしました。匿名での相談も可能とし、プライバシー保護に最大限配慮しています。

4. 若手主導の社内コミュニティ支援

若手社員が中心となってLGBTQ+に関するテーマで集まり、学ぶ、交流する社内コミュニティの活動を積極的に支援しています。イベント開催費用の一部負担、社内広報チャネルでの情報発信サポート、活動時間の柔軟な調整などを通じて、社員同士が自然な形で繋がり、インクルージョンを推進する文化を醸成することを後押ししています。

導入プロセスと直面した課題:理解促進と継続的な対話

これらの取り組みを導入するにあたり、インテグレートサービス社は以下のプロセスを経ました。

  1. ニーズ把握: 若手社員向けのアンケートやフォーカスグループインタビューを実施し、職場環境やキャリアに関するリアルな声、D&Iへの関心度や懸念点を詳細に把握しました。
  2. 経営層への提案と承認: 把握したニーズと、若手社員のエンゲージメント・定着率向上、将来のタレント育成への影響、企業イメージ向上といった長期的な視点からの投資対効果をデータや他社事例と共に説明し、経営層からの理解と承認を得ました。
  3. 制度設計・研修開発: D&I専門家、社内の当事者・アライ社員グループ、人事、現場部門の代表者が連携し、具体的な制度設計や研修コンテンツの開発を行いました。特に研修内容は、特定の価値観を押し付けるものではなく、多様な性を理解し、互いを尊重するための基本的な知識と、具体的な行動(アライシップ)に焦点を当てるよう工夫しました。
  4. パイロット実施と検証: 一部の部署や新入社員を対象にパイロットプログラムを実施し、参加者のフィードバックや効果を検証しました。
  5. 全社展開と周知: パイロット結果を踏まえ、制度や研修を全社的に展開。社内ポータル、説明会、マネージャー向けのブリーフィングなどを通じて、取り組みの目的と内容を丁寧に周知しました。

導入プロセスで直面した課題としては、主に以下の点が挙げられます。

これらの課題に対しては、全社員向けの啓発キャンペーンやマネージャー向けのD&I研修を同時並行で実施し、若手向け施策を全社的なD&I戦略の一部として位置づけることで対応しました。また、研修コンテンツは外部専門家と定期的にレビューを行い、メンター研修や相談窓口の運用ガイドラインを整備し、匿名相談の徹底やプライバシーポリシーの明確化を行うことで、安心感を醸成する努力を続けています。

導入後の変化と効果:高まるエンゲージメントと前向きな変化

これらの取り組みを導入した結果、インテグレートサービス社では、特に若手・新入社員層を中心に、いくつかのポジティブな変化が見られました。

これらの効果は、若手層への早期からのインクルージョンへの投資が、単なる福利厚生に留まらず、社員の定着、エンゲージメント、そして将来的なタレントパイプラインの強化という、経営にとって重要な成果に繋がることを示しています。

成功のポイントと示唆:長期的な視点と連携の重要性

インテグレートサービス社の事例から学ぶべき成功のポイントはいくつかあります。

まず、長期的な視点を持って若手・新入社員層に焦点を当てたことです。入社後早期にD&Iの重要性を伝え、安心できる環境を提供することが、その後の社員のエンゲージメントや組織文化への定着に大きく影響することを理解していました。

次に、施策設計において多様なステークホルダーとの連携を重視したことです。若手社員へのヒアリング、当事者・アライ社員との協働、人事、現場、外部専門家との連携があったからこそ、ニーズに合った、実践的な施策を設計・実行できました。

また、制度導入だけでなく、心理的な安全性確保のための配慮を怠らなかったことも重要です。メンター制度の守秘義務徹底や相談窓口のプライバシー保護への配慮は、社員が安心して制度を利用するための基盤となりました。

最後に、効果測定を通じて経営層への説明責任を果たし、継続的な改善のサイクルを回していることです。アンケート結果や定着率データなどを活用することで、取り組みの重要性を組織内外に示すことができ、今後の投資や改善の根拠としています。

まとめ:未来を創るタレントへのインクルージョン投資

インテグレートサービス社の事例は、特に若手・新入社員という、組織の未来を担うタレント層への早期からのLGBTQ+インクルージョン投資が、組織文化の醸成、従業員エンゲージメント、そして企業全体の競争力強化に繋がることを示唆しています。

人事やD&I推進に携わる方々にとって、この事例は、単に既存の制度を拡張するだけでなく、対象者(特に新しい世代)のニーズを深く理解し、入社後のオンボーディングやキャリア形成といったプロセスの中にインクルージョンを戦略的に組み込むことの重要性を教えてくれます。

この事例から学び、自社でも若手・新入社員へのアプローチを見直し、早期からの啓発と安心できる支援体制を構築することで、よりインクルーシブで活力のある組織を築いていくための一歩を踏み出していただければ幸いです。インテグレートサービス社も、今後はマネージャー層への浸透や、グローバル拠点での同様の取り組み展開を目指しており、その挑戦は続いています。