大手ソフトウェア企業 ソリューションズプラス株式会社の挑戦:製品開発と顧客支援に多様性視点を取り込むLGBTQ+インクルージョン
はじめに:事業の中核に多様性を取り込むソリューションズプラス株式会社
ソリューションズプラス株式会社は、国内外の多様な業界に対し、基幹業務を支える高品質なソフトウェアソリューションを提供している大手企業です。近年、顧客企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の加速に伴い、当社が提供するソフトウェアが顧客企業のビジネスプロセスや従業員の日常業務に深く組み込まれる機会が増加しています。
このような状況下で、当社は単に機能を提供するだけでなく、利用するすべての人々にとって公平で使いやすい製品であること、そして顧客企業の多様なニーズに応えられるパートナーであることを重視するようになりました。特に、LGBTQ+に関する課題は、従業員のウェルビーイングや心理的安全性に関わるだけでなく、顧客企業が推進するダイバーシティ&インクルージョン(D&I)への貢献、ひいては製品そのものの市場競争力にも直結すると認識するに至りました。
こうした背景から、ソリューションズプラス株式会社では、人事部門主導の一般的なD&I推進に加え、製品開発プロセスと顧客対応業務という、事業の中核にLGBTQ+インクルージョン視点を組み込む挑戦を開始しました。本記事では、その具体的な取り組み内容、導入プロセスでの課題、そして導入後の変化と効果についてご紹介します。
製品開発と顧客対応への具体的取り組み
ソリューションズプラス株式会社が実施した主な取り組みは以下の通りです。
1. 製品開発プロセスへの多様性チェックリスト導入
製品開発チームが企画・設計段階から多様性、特にLGBTQ+の視点を考慮できるよう、「多様性チェックリスト」を開発プロセスに組み込みました。このチェックリストには、以下のような項目が含まれています。
- ユーザーインターフェース(UI)/ユーザーエクスペリエンス(UX):
- 氏名入力欄に性別を必須とせず、性別選択肢が必要な場合は多様な選択肢(例: 男性, 女性, その他, 回答しない)を提供する、あるいは自由記述を可能にする。
- アバター機能やプロフィール設定において、性別や外見に関するステレオタイプに縛られない表現を可能にする。
- システム内のコミュニケーション機能(チャットなど)で、ユーザーが希望する代名詞(例: 彼は, 彼女は, 彼/彼女は, 彼らは)を表示できるオプションを検討する。
- 用語・表現:
- マニュアルや画面上の指示文において、性別を限定する言葉(例: 夫/妻, 父/母)を使用せず、より包括的な言葉(例: 配偶者, 保護者)を使用する。
- LGBTQ+当事者や関連するトピックについて言及する際に、正確で尊重のある言葉遣いを用いる。
- アクセシビリティ:
- 多様なユーザーが製品を問題なく利用できるよう、基本的なアクセシビリティ基準を満たすことに加え、性的指向・性自認に関わらず不安なく使用できるデザインを心がける。
このチェックリストは、開発者やデザイナー向けの研修とセットで提供され、新しい機能開発や既存機能改修の際に必ず参照・適用されるルールとして定着を図りました。
2. 顧客対応ガイドラインの作成と研修
営業、プリセールス、カスタマーサクセス、サポートなど、顧客と直接関わる部門の従業員向けに、「多様性に配慮した顧客対応ガイドライン」を作成しました。このガイドラインでは、以下のような具体的な対応方法を示しました。
- 顧客企業のD&I担当者との対話において、当社のLGBTQ+インクルージョンへの取り組みを紹介する方法。
- 顧客企業内でLGBTQ+に関する話題が出た際の、中立的かつ肯定的な対応方法。
- 顧客担当者がLGBTQ+当事者であると認識した場合の、プライバシー尊重と差別禁止に関する注意点。
- ハラスメントや差別的な言動を顧客側から受けた場合の、社内報告・対応フロー。
- 顧客企業がLGBTQ+に関する機能や表示について質問・要望を出した場合の、製品開発チームとの連携方法。
これらのガイドラインの内容を浸透させるため、ロールプレイングを取り入れた集合研修や、オンラインでの反復学習が可能なeラーニングを実施しました。
3. 社内啓発活動の強化と事業部門との連携
人事部門主導で行っていた全従業員向けアンコンシャスバイアス研修に、製品開発や顧客対応の具体例を多く取り入れるように内容をアップデートしました。また、社内報やイントラネットを通じて、製品開発や顧客対応における多様性配慮の重要性とその具体的な取り組み事例を紹介しました。さらに、社内アライコミュニティ「Solution+ Ally Network」に対し、事業部門との交流会や勉強会を企画・実施するよう働きかけ、現場従業員からのフィードバックやアイデアが取り組みに反映される仕組みを作りました。
導入プロセスにおける課題と克服
これらの取り組みを進める上で、いくつかの課題に直面しました。
課題1:事業部門の関心と巻き込み
当初、D&I推進は人事部門の課題であり、製品開発や営業といった事業部門にとっては優先度が低いという認識がありました。「日々の業務が忙しい」「専門知識がないのにどうすれば良いか分からない」といった声も聞かれました。
克服策: 経営層から「多様性への配慮は、顧客からの信頼獲得や製品の市場競争力向上に不可欠な経営課題である」という明確なメッセージを繰り返し発信しました。また、人事部門が一方的に指示するのではなく、製品開発チームや営業チームからメンバーを選出した部門横断プロジェクトチームを立ち上げ、当事者意識を持って課題や対策を検討する体制を構築しました。プロジェクトメンバーは、社内外のD&I専門家やLGBTQ+当事者、アライの声を聞く機会を設け、取り組みの必要性や具体的な方法への理解を深めました。
課題2:具体的なガイドライン・チェックリスト作成の専門性
製品開発や顧客対応における具体的な配慮点、特に技術的な側面や専門的なコミュニケーションに関するガイドライン作成には、LGBTQ+に関する深い知識が必要でした。
克服策: 外部のD&IコンサルタントやLGBTQ+支援団体と連携し、最新の知見やベストプラクティスを取り入れながらガイドラインとチェックリストを作成しました。また、作成後も定期的に内容を見直し、技術や社会の変化に合わせてアップデートする体制を構築しました。
課題3:取り組みの効果測定
製品開発や顧客対応における多様性配慮が、具体的に事業成果にどう結びついているのかを定量的に示すことが難しいという課題がありました。
克服策: 定量的な指標としては、顧客満足度アンケートの設問に「多様性への配慮」に関する項目を追加したり、競合との差別化ポイントとしてLGBTQ+インクルージョンが商談でどのように言及されているかを営業担当者からヒアリングしたりしました。また、定性的な情報として、顧客からの感謝の声や、多様な顧客層からの製品に対する好意的なフィードバックを収集し、社内外に共有しました。さらに、製品開発チーム内での心理的安全性の変化や、多様なアイデアが出やすくなったかといった点を、従業員エンゲージメント調査やヒアリングを通じて測定しました。
導入後の変化と効果
これらの取り組みを進めた結果、ソリューションズプラス株式会社では以下のようなポジティブな変化が見られました。
社内における変化
- 従業員の意識向上: 従業員アンケートでは、「会社のD&I推進に共感する」という回答が増加しました。特に、製品開発や顧客対応に関わる部門の従業員から、「多様な顧客を意識することで、より深くユーザーを理解しようとする意識が高まった」「顧客とのコミュニケーションにおいて、相手への配慮が自然とできるようになり、信頼関係構築に役立っている」といった声が聞かれました。
- 部門間連携の促進: 製品開発、営業、人事といった部門が、LGBTQ+インクルージョンという共通のテーマを通じて連携する機会が増え、部門間の風通しが良くなりました。アライネットワークの活動も活発化し、社内コミュニティが多様性に関する情報交換や学びの場として機能しています。
- 心理的安全性の向上: 開発チームや営業チームのミーティングにおいて、多様な意見や視点(例えば、「この表現は特定の属性の人を排除する可能性はないか」「このような顧客にはどのようにアプローチすべきか」といった、以前は言いにくかったであろう懸念や提案)が出やすくなったという定性的な報告が増加しました。
事業・顧客における効果
- 製品の競争力向上: 多様なユーザーニーズを製品開発に反映させた結果、特定の業界や顧客層から「細部まで配慮が行き届いた、使いやすい製品」として高い評価を得られるようになりました。これは、競合製品との差別化ポイントとなり、新規顧客獲得における優位性につながっています。
- 顧客信頼の獲得と関係強化: D&I推進に積極的な顧客企業からは、「パートナー企業もD&Iを重視していることを知り、より安心して取引できる」「当社のD&Iに関する課題についても相談しやすくなった」といった肯定的なフィードバックが得られました。これは、既存顧客との関係強化に貢献しています。
- 企業イメージ向上: 対外的な広報活動においても、製品やサービスを通じたD&Iへの貢献という視点を加えることで、企業の社会的責任を果たす企業としてのイメージ向上につながっています。
成功のポイントと示唆
ソリューションズプラス株式会社の取り組みが成果を上げた主要なポイントは、以下の通りです。
- 経営層の明確なコミットメント: D&I、特にLGBTQ+インクルージョンが、単なる人事施策ではなく、事業成長に不可欠な戦略として位置づけられ、トップがその重要性を繰り返し発信したことが、社内の意識を変える大きな力となりました。
- 事業部門を巻き込んだ主体的な推進体制: 人事部門だけでなく、製品開発や営業といった事業部門を巻き込み、彼らが「自分たちの業務に直結する課題」として主体的に取り組む体制を構築したことが、施策の実効性を高めました。部門横断プロジェクトチームの設置は、この点で有効でした。
- 具体的な行動レベルへの落とし込み: 「多様性チェックリスト」や「顧客対応ガイドライン」のように、抽象的な理念に留めず、日々の業務で具体的に何をすれば良いかが明確に示されたことが、従業員の行動変容を促しました。
- 外部連携と継続的な学び: 専門的な知識が求められる部分では、外部の専門家や支援団体から知見を得ることをためらわず、また、一度で終わりとせず、継続的に学び、ガイドラインなどをアップデートする姿勢が重要でした。
- 効果測定への意識と可視化: 事業成果への貢献度を定量・定性両面から測定し、社内外に可視化することで、取り組みの意義を共有し、さらなる推進へのモチベーションとしました。
この事例から得られる示唆は、D&I推進は人事部門だけが担うものではなく、事業部門、ひいては企業活動のあらゆる側面に組み込まれるべきであるということです。製品やサービス自体に多様性視点を組み込むことは、新たな顧客価値を創造し、企業の競争力を高める可能性を秘めています。
まとめ:事業を通じてインクルーシブな社会を創造する
ソリューションズプラス株式会社の事例は、LGBTQ+インクルージョンへの取り組みが、従業員のウェルビーイング向上や心理的安全性確保といった社内的な効果だけでなく、製品・サービスの質向上や顧客からの信頼獲得といった事業面での具体的な成果にもつながることを示しています。
この成功は、経営層の強いリーダーシップのもと、人事部門が事業部門と密接に連携し、外部の専門家の知見も借りながら、具体的な行動指針を策定し、それを現場レベルにまで浸透させる粘り強い努力によって支えられました。
本事例が、読者の皆様が自社でLGBTQ+インクルージョンを推進されるにあたり、特に製品開発や顧客対応といった事業の中核にどのように多様性視点を組み込むかという点において、具体的なヒントとなることを願っています。自社の事業特性を踏まえ、どこから多様性を取り込むことが最も効果的かを検討し、小さな一歩からでも実践を始めてみてはいかがでしょうか。ソリューションズプラス株式会社は、今後もサプライヤー連携やグローバル拠点への展開など、取り組みの範囲を広げていく計画です。